日本では、IT人材の73.6%がIT企業に所属しています。米国は35.1%です。[1]

ITを使う側の企業に、人も経験もたまりにくい。この構造は、「システムを入れたのに仕事の進め方が変わらない」「ちょっとした改善でも、外部の担当者に聞かないと分からない」といった、中小企業でよく聞く悩みとつながっています。

この記事では、IPA(情報処理推進機構)などの公的データと研究をもとに、次の3つを考えます。

  • 日米で「IT人材がいる場所」はどれほど違うのか
  • 社内にIT力が育たないと、経営や現場で何が起こるのか
  • 外部の力を借りながら、社内にIT力を残すにはどうすればよいか

日米の違いは「IT人材がいる場所」に表れている

日本はIT人材の73.6%がIT企業に所属、米国は35.1%。IT企業以外に所属する割合は日本26.4%、米国64.9%

人材の所属先 日本(2020年) 米国(2021年)
IT企業 73.6%(922,470人) 35.1%(1,746,540人)
IT企業以外 26.4%(331,460人) 64.9%(3,234,550人)

出典:IPA『DX白書2023』説明会資料。日本の国勢調査、米国の職業雇用統計を基にIPAが集計。

米国では、IT人材の3人に2人がIT企業以外、つまりITを使う側の企業で働いています。日本はちょうどその逆です。2015年の時点でもIT企業に所属する割合は日本72.0%、米国34.6%で、日本の配置はこの間ほとんど変わっていません。[1]

※ 日本は2020年、米国は2021年の統計で、2026年の現況値ではありません。日米で職業・産業分類も異なります。本記事では統計上の「情報処理・通信に携わる人材」を「IT人材」と呼んでいます。所属先の統計だけでは、委託・派遣を含む実際の業務体制や、個々の企業の能力までは分かりません。

外部任せが「社内に経験が残らない仕組み」になるとき

外部の専門家に頼ること自体は悪くありません。技術も人手もすぐに確保できます。困るのは、課題の整理からシステムの選定、導入後の評価まで丸ごと任せてしまい、社員が自分で考えたり試したりする機会がなくなることです。

IPAも、IT人材がベンダー側に偏り、ユーザー企業がそこに強く依存する「低位安定」の構造を指摘しています。[2] 私たちの見方では、社内のIT力が育ちにくくなる流れはおおむね次のとおりです。

  1. 社内に、業務とITの両方が分かる人が少ない
  2. 課題の整理や改善策の検討も外部に頼る
  3. 社員の仕事は依頼と確認が中心になり、設計や試行錯誤の経験を積めない
  4. なぜそう判断したのか、どう改善したのかが社内に残らない
  5. 次に改善したいときも自社で判断できず、また外部に頼る

研修を受けても、実務で試す時間や権限がなければ、この流れはなかなか変わりません。担当者が育つのは、外部の専門家と一緒に課題を整理し、選択肢を比べ、導入後の効果まで確かめたときです。

社内にIT力が育たないと、何が起こるのか

ここでいう「IT力」は、プログラミングができるかどうかではありません。自社の課題をつかみ、技術の使い道を判断し、運用と改善を続けていく組織の力のことです。これが弱いと、次のようなことが起こりやすくなります。

起こり得る問題 経営・現場への影響
改善のたびに社外との調整が必要 小さな変更でも見積もりや日程調整が発生し、顧客対応や業務改善が遅れる
導入目的や選定基準が曖昧 自社の課題に合わないツールを導入し、費用に見合う成果が出ない
仕組みや判断経緯が分からない 担当者の退職や委託先の変更時に、運用・改修を続けにくい
部門ごとにツールとデータが分断 二重入力や手作業の集計が残り、会社全体でデータを使えない
資産・権限・復旧手順を把握していない 障害やセキュリティ事故の際、自社として判断・指示ができない

外部委託をすれば必ずこうなる、という話ではありません。責任分担や情報共有が曖昧なまま、自社で把握も判断もできない状態が続いたときに起こるものです。経済産業省も、ユーザー企業自身がシステムを把握すること、上流工程を担える人材を育てること、経営層が関わることを求めています。[3]

データで見る「社内のIT力」と事業成長

日米の差は、効率化よりも新しい価値づくりで大きい

DXで成果が出ている割合。業務効率化は日本78.6%・米国80.0%とほぼ同じだが、新規製品・サービスの創出は日本20.2%・米国61.2%、ビジネスモデルの変革は日本16.4%・米国69.7%

IPA『DX動向2025』を見ると、業務効率化の成果では日米の差はわずか1.4ポイントです。ところが新規製品・サービスの創出になると41.0ポイント、ビジネスモデルの変革では53.3ポイントまで開きます。[4] 日本企業は効率化では成果を出していても、それを事業の成長につなげるところで止まっている、と読めます。2026年7月に公表された国内1,799社の調査でも、成果が業務効率化に偏る傾向は続いているそうです。[5]

※ 対象は「DX全体で成果が出ている」と回答した企業(日本681〜684社、米国340社)で、全企業を分母にした割合ではありません。2024年度データ。

成長している企業は、内製化と協調と外部連携を組み合わせている

IPAの追加分析では、効率化だけで成果が出た企業と、効率化と成長の両方で成果が出た企業を比べています。[6]

取組の実施割合 日本:効率化のみ成果 日本:効率化・成長とも成果 米国:効率化・成長とも成果
内製化を進めている・完了した 43.3% 58.2% 91.4%
経営者・IT部門・業務部門の協調 52.3% 76.0% 92.3%
外部組織との連携 42.3% 65.7% 84.7%

※ 「成果を上げた企業のうち、その取組をしている割合」であり、「内製化すれば58.2%の確率で成功する」という意味ではありません。

差があるのは内製化だけではありません。部門間の協調にも、外部との連携にも同じように差が出ています。社内で抱えるか外に頼むかの二択ではなく、両方をうまく組み合わせている企業が伸びている、ということでしょう。

社内に開発者がいる企業は、新製品・サービスを出しやすい

スウェーデン企業3,930社を調べた研究もあります。企業規模や業種などの影響を調整したうえで、ソフトウェア開発をしていない企業と比べると、製品・サービスのイノベーションを導入する確率は次のように高くなっていました。[7]

ソフトウェア開発体制 イノベーション導入確率との関係
社内開発者を持つ企業(外部併用を含む) +16.6ポイント
外部開発のみの企業 +9.6ポイント

外部に頼んで開発するだけでも効果はありますが、社内に開発者がいる企業のほうが数字は大きく出ています。

社内にIT人材がいると、何が変わるのか

ここからは、データを踏まえた私たちの考えです。

まず、現場の気づきを技術で試せる形にしやすくなります。営業担当者は顧客の困りごとをよく知っていますが、データやソフトウェアで何ができるかまでは分からないことが多いものです。技術の分かる人と普段から話せる環境があれば、発注仕様書になる前の小さな気づきから、サービスの案を一緒に考えられます。

試作して、顧客の反応を見て、直す。このサイクルも回しやすくなります。新しい事業は、最初から正しい仕様が決まっているわけではありません。事業側と技術側が優先順位を共有していれば、小さな変更のたびに大がかりな発注手続きを踏まずに済みます。

試行錯誤の結果が社内に残るのも大きな違いです。価値があるのは完成したプログラムだけではありません。「どのデータが使えたか」「顧客は何に反応したか」「なぜこの案をやめたか」。こうした経験が、次に何かを始めるときの判断材料になります。

そして、外部の技術や提案を自社に取り込む力もつきます。社内に技術が分かる人がいれば、ベンダーやスタートアップの提案を評価し、自社の業務やデータにどうつなぐかを考えられます。社内の力があるほど、外部との協力もうまくいきます。

たとえば製造業なら、設備の稼働データから故障の兆候をつかみ、保守サービスを新しい収益源にできるかもしれません。卸売業なら、受注履歴や在庫情報から、顧客ごとに補充を提案するサービスも考えられます。どちらも説明のための仮の例ですが、業務の知識と技術を結びつけるというのは、こういうことです。

中小企業が、今日から始められること

中小企業が開発や運用をすべて自社で抱える必要はありません。外部の専門家を使いながらでも、「どの課題を優先するか」「何を実現したいか」「導入して効果が出たか」の3つを自社で判断できれば十分です。そのための第一歩として、次の4つから始めてみてください。

  1. 推進担当者を決め、改善に使える時間と、自分で判断してよい範囲をはっきりさせる。兼任でも構いません。
  2. 業務を一つ選び、外部の専門家と社員が一緒に改善してみる。丸投げではなく、課題の整理から効果の確認までを共同で行います。
  3. 設定内容だけでなく、なぜそれを選んだのか、どう運用するのか、データが何を意味するのかを文書に残す。担当者が替わっても続けられるようにするためです。
  4. 削減できた時間だけでなく、売上や顧客満足、提案の数など、事業につながる成果も見る。

経済産業省は、ベンダー企業に対しても、ユーザー企業の内製化を支援し伴走する役割を求めています。[3] 外部の支援を受けるたびに、社員が一つ多く判断でき、一つ多く改善できるようになる。そうやって少しずつ積み上げた力が、次の新しい取り組みを試す足場になります。

まとめ

日本のIT人材の約7割はIT企業に所属していて、ITを使う側の企業には経験がたまりにくい構造があります。日米のDXの差も、業務効率化より新しい価値づくりのほうで大きく開いていました。成果を上げている企業は、内製化と部門間の協調、外部との連携を組み合わせています。

中小企業にとって大事なのは、全部を自前でやることではありません。外部の力を借りながら、判断と改善の経験を社内に残していくことです。

Inobitは名古屋を拠点に、社内IT・業務改善・DXの支援をしています。作業を代わりにこなすだけでなく、担当者の方が自分で判断し、改善できるようになることを目指して伴走しています。「社内にITの相談相手がいない」「何から始めればよいか分からない」といった段階でも、お気軽にご相談ください。


出典・参照資料

いずれも2026年9月30日確認。本文中の構造の整理、リスクの整理、仮の例、取組の提案は筆者の考察です。紹介した統計・研究は第三者資料であり、Inobitのサービスによる成果を示すものではありません。

  1. IPA『DX白書2023』説明会資料「3.戦略・人材・技術の解説」資料内43~44ページ。https://www.ipa.go.jp/archive/event/2022/hjuojm000000cfks-att/000109379.pdf
  2. IPA DX SQUARE「ITシステムのモダン化とは? レガシーシステムモダン化委員会総括レポートのポイント解説」。https://dx.ipa.go.jp/modernization
  3. 経済産業省「レガシーシステム脱却に向けた『レガシーシステムモダン化委員会総括レポート』を取りまとめました」2025年5月28日。https://www.meti.go.jp/press/2025/05/20250528003/20250528003.html
  4. IPA『DX動向2025』図表1-20、本文17ページ。https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/tbl5kb0000001mn2-att/dx-trend-2025.pdf
  5. IPA「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公表」2026年7月16日。https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2026/press20260716.html
  6. IPA「DX動向2025―成長のためのDXに求められる取組」本文PDF、別表1・本文16ページ(企業群は左から371社、271社、314社)。https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/discussion-paper/tbl5kb0000006bvm-att/dx2025_activities_for_driving_growth.pdf
  7. Andersson, M., Kusetogullari, A., & Wernberg, J. (2020). Software Development and Innovation – Exploring the Software Shift in Innovation in Swedish Firms. IFN Working Paper No.1347, Table 1. https://www.ifn.se/media/424pq1kz/wp1347.pdf